初めての 「村上春樹」

ノルウェイの森(上)

ノルウェイの森(上)

 確か、社会人になるか ならないかの頃、大きな書店に行くと 必ずと言っていいほど この本が何冊も平積みされていた。当時から ベストセラー として話題になっていた。
 「ベストセラー」 なんて、マスコミ などに扇動された 作り物の事象だ と私は思っていた。だから、今回 図書館から借りてきて読むまでに、書店の どんなに目の付く場所に置かれていようとも、この本を一度も手に取ったことがなかった と思う。奇しくも、作品の中で ある登場人物が語っている。

彼は僕なんかははるかに及ばないくらいの読書家だったが、死後三十年を経ていない作家の本は原則として手にとろうとはしなかった。そういう本しか俺は信用しない、と彼は言った。
 「現代文学を信用していないというわけじゃないよ。ただ俺は時の洗礼を受けてないものを読んで貴重な時間を無駄に費やしたくないんだ。人生は短かい」


 「村上春樹」 という作家は、私にとっては まだ 「信用」 できない作家だったのだ と思う。だが、彼の翻訳技術に対する一定の評価が無視できないものになってきた昨今のこと。英語にも翻訳され、ノーベル 文学賞候補とまで囁かれている。権威に屈するのは私自身、好きではないのだが、自国の文化などについて一定の知識を持つべきだろう という思いがある。外国人に尋ねられた時に、「読んだことがない。」 では上手くないのではないか と感じた。小説、翻訳、エッセイ などを通じて 彼の作品を読むのは今回が初めてだ。私自身の好みとしては フランス の匂いのする 「カフカ」 などという名の入った作品を読んでみたかったのだが、やはり、『ノルウェイの森』 から始めるのが良かろう と考えた。
 昨晩 ベッド に入ってから読み始め、午前0時を回ったところで眠気に襲われた。だが、上巻の後半になって ぐいぐい物語に引き込まれてしまい、1冊目を読み終えた頃には 続きを読まずにはいられなくなってしまっていた。時計は夜中の2時を過ぎていた。